エレベーターの開閉ボタン 〜走ってきた人のためにとっさに開くボタンを押してあげられるか?

エレベーターの開閉ボタンを瞬時に判断することは難しいです。エレベーターに乗ろうと走ってきた人のために、とっさに開くボタンを選んで押してあげる自信がありますか?

エレベーターでの生殺与奪権

平日の正午、あなたはエレベーターに乗ってボタンの目の前に立っています。いままさにエレベーターのドアが閉まろうとしています。あなたの頭の中は、午後から始まるミーティングのプレゼンでいっぱいかもしれませんし、ランチに何を食べるか決めかねているかもしれません。学生なら午後の授業をサボろうかどうか思案中かもしれません。

そのとき、エレベーターに向かって走ってくる人が見えました。その人がエレベーターになんとか乗り込もうと考えていることは容易に想像がつきます。ドアが閉まる前に間に合うかどうかは微妙なところです。もしかしたら間に合うかもしれませんし、間に合わないかもしれません。

この瞬間、あなたにはふたつの選択肢が与えられます。待つのがうざいので「閉」ボタンを押して間に合わなかったことにすることと、せっかく走ってきたのだから間に合うように「開」ボタンを押してエレベーターに乗せてあげることです。まさにあなたには生殺与奪権があるのです。

人のいいあなたは、もちろんのことながら走ってきた人を乗せてあげることにしました。あなたは「開」ボタンを押して走ってきた人に笑顔を向けます。「さあ、どうぞ乗ってください」という思いのこもった精一杯の笑顔です。

ここでとんでもないことが発生します。なんと、エレベーターはあなたの意思に反してドアが閉まってしまいます。「おかしい! 開くボタンを押したのに!」、あなたは内心焦りながら自分の指先に目を向けると、押しているボタンは「閉」のほうでした。走ってきた人を笑顔で向かい入れるはずのあなたは、ドアを閉めながら笑う嫌な奴になってしまったのです。

開閉ボタンのわかりにくさ

エレベーターで開くボタンを押したはずなのに閉まるボタンを押していたという経験は、誰しも一度は体験したことがあるのではないでしょうか。閉まりゆくドアの向こうで、直前でドアを閉められた人の「信じられない!」という視線が痛く突き刺さる感触と、動き出したあとのエレベーターの中に漂う居心地の悪い雰囲気は、できれば味わいたくないものです。

このような失敗が多い原因に開閉ボタンのわかりにくさがあります。エレベーターの開閉ボタンは落ち着いてみれば何ともないのですが、とっさのときに「開」も「閉」も門構えなので瞬時に見分けることは難しいのです。漢字の「開」と「閉」以外にも不等号で開閉を表現しているボタンもあります。「< >」と「> <」です。これも実にわかりにくいです。「< >」がドアが開くことを示して、「> <」がドアが閉まることを示しています。この不等号ボタンの場合も、瞬時にボタンを見分けられるかどうかと聞かれれば、私は自信がありません。

いっそのこと閉じるボタンをなくして開くボタンだけにしてしまうというアプローチもあります。たとえば、アップルストアのエレベーターには開くボタンしかありません。しかし、こういうデザインはアップルストアなどのショップだからこそ成り立つものでしょう。たとえば、マンションのエレベーターで、夜中に女性がひとりでエレベーターに乗っているとき、刃物を持った男性が走ってきたら大急ぎで閉じるボタンを押すべきです。このときに開くボタンしかなければ悲劇が起こります。開くボタンしかないデザインが成り立つのは限定的な場合においてのみと考えたほうがよさそうです。

ドアが閉じるときに押すボタンを明確にする実例

この問題にうまく対応している実例を、函館に旅行に行ったときに見つけました。「ぶらり、のほほんおやぢの旅 ~函館編~」でも少し書いたのですが、ラビスタ函館ベイというホテルのエレベーターは、ドアが閉まりはじめると「開」ボタンが点滅をはじめます。「開」ボタンの点滅はドアが完全に閉まるまで続きます。

エレベーターで外からの人を迎えるときに瞬時にボタンの違いを判断することは難しいということをよく理解しています。「開」ボタンを点滅させて目立たせることで、いまこの瞬間にどちらのボタンを押せばいいのかを明確にしています。このホテルならではのアイデアなのでしょう。ラビスタ函館ベイならではのホスピタリティーなのかもしれません。

ドアが閉まるときに開くボタンが点滅する仕様が標準になれば、エレベーターの前で悔しい思いをするどれほどの人が減るでしょうか。エレベーターの中で気まずい思いをするどれほどの人が減るでしょうか。エレベーターメーカーやエレベーターを設置する事業者は、エレベーターの待ち時間の短縮もさることながら、開閉ボタンの違いが判別しやすいように、もっとユーザビリティを考えてもいいのではないでしょうか。

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