『アノニマスケイプ こんにちは二十世紀』を読みました
官報に掲載された行旅死亡人欄のコピーと最期の場所となったモノクロームの写真で綴る二十世紀。
まず官報とは、日本国の機関誌と言えるもので、国民に対する公示が掲載されているものです。
法律の公布や国会のこと、皇室のことや、国家試験の概要や結果、破産など裁判に関することが載っています。独立行政法人 国立印刷局が発行しており、直近30日分ならネットでも見ることができます。
この官報に掲載される事項のひとつに行旅死亡人があります。行旅死亡人とは、行き倒れて死亡し、身元が判明せず、遺体の引き受け手が見つからない場合に、「行旅病人及行旅死亡人取扱法」にもとづき、市区町村長名義で死亡時刻や発見場所、所持品、外見の特徴などが官報に掲載されます。
『アノニマスケイプ こんにちは二十世紀』は、行旅死亡人の最期となった場所の写真と、官報のコピーを掲載した写真集です。
人が写っていないモノクロームの写真は、単体で見ると、何の変哲もない風景写真、街中スナップのようなものだけど、行旅死亡人の記事があることで、その風景に闇を感じさせます。
淡々と綴られる官報の文章には、縊死、溺死、轢死、凍死、餓死などの自殺や行き倒れのほか、鈍器で頭部を殴られたという記載やコインロッカーベイビー、また行旅病人として保護されたが死亡したケースも出てきます。
写されている場所は、死に結びつきそうにないところですが、かつてそこで最期を迎えた人がいるということを思うと、死もまたひとつの日常そのものだということを感じさせます。
1901年から2000年までの行旅死亡人が100年分あり、明治、大正の官報は字が潰れて読みづらい。そうした印刷技術の変遷も見て取ることができるでしょう。
この本、実は発行部数が極端に少なく、初版1刷が100部、2刷が100部、第2版が1,000部とかなり貴重な本です。
前半は日本語版、後半は英語版という構成で文庫サイズです。
なかなか売られていないですが、アマゾンで出版元がマーケットプレイスで新品を出していたのを見つけて購入しました。
嬉しいことにサイン入り!
冊子も入っていました。
フィリップ・モリスK.K.アートアワード2002大賞受賞作品。