カレログ2のようなログ収集系アプリの問題は同意の強制と利用させる側の未熟な心にある

カレログが社会的に問題になってサービスを停止した。その後、カレログの問題を解決したとするカレログ2が出てきているが、真の問題は同意の強制と利用させる側の心の闇である。

カレログが社会的な問題になったのは記憶に新しい。個人情報保護や人権侵害の懸念が強く、セキュリティーベンダーのMcAfeeも自社のウイルス情報データベースに「Android/Logkare.A」という名前で「不審なプログラム(PUP)」として登録した。

何が問題だったのか

まずはカレログで問題となった点を振り返ってみたい。このAndroidアプリは位置情報、バッテリー残量、アプリ一覧を取得でき、「プラチナ会員」には通話記録の閲覧が可能であった。通話記録の取得は彼女が、自分以外の女性と通信をしていないか彼氏を監視する目的を想定していたのであろう。これが通信の秘密を侵害する機能であった。

カレログは女性向けに彼氏の浮気を監視するというコンセプトでサービス提供を行っていた。位置情報の取得は彼氏の現在地をリアルタイムで把握し、風俗やホテルなどの怪しい場所にいないかどうかを監視する目的であることが推定された。バッテリー残量の取得は「電池が切れてつながらなかった」という言い訳に対応するためであると推定された。アプリ一覧は彼氏が「エッチ」なアプリを入れていないかを監視することが推定された。これらの機能が利用者の同意なしにインストールできてしまうこと、彼氏のメンツを守るという名目の元、アプリがインストールされていないように見せる偽装がされていたため、一度インストールされてしまうと気づきにくかったことが問題となった。

これがスパイウェアのような挙動と認識され、McAfee社のウイルス情報データベースへの登録となった。また、総務省から違法性の指摘を受けた。

通信の秘密の侵害

特に通話記録の閲覧に関しては通信の秘密を侵害する行為である。通信の秘密は、日本では憲法に規定されるほど重要な権利である。

日本国憲法

第21条 2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

むろん、通信関連の法案である電気通信事業法にも検閲の禁止と秘密の保護については規定されている。罰則も規定されている。

電気通信事業法

第一章 総則

(検閲の禁止)
第三条  電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない。

(秘密の保護)
第四条  電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
2  電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。

第六章 罰則

第百七十九条  電気通信事業者の取扱中に係る通信(第百六十四条第二項に規定する通信を含む。)の秘密を侵した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
2  電気通信事業に従事する者が前項の行為をしたときは、三年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。
3  前二項の未遂罪は、罰する。

電気通信事業法は電気通信事業者に関する法律であり、アプリを通じてサービスを提供する事業者が電気通信事業者となるのかということもあるが、それでも罰則が規定されており、電気通信事業者の場合は刑が重くなっている。そもそも憲法で通信の秘密が規定されており、憲法で規定されている以上、いかなるものもいかなる法律もこれを犯すことはできない。

通話記録を参照できる「プラチナ会員」サービスは、その後サービスを停止して料金を返還している。

差別の助長

アプリの機能とは別にコンセプトを疑問視する声もあった。

男性を監視してもいいとする解釈から「男性差別」であるとの懸念が上がった。アプリ自体に性別を登録したり判定する機能はないが、「カレログ」という名前からして男性を監視することを主たる目的とすることが推定されるし、ホームページの説明文にも彼氏の気になる行動を監視するようなことが書かれていた。もし、このアプリの名前が「カノログ」であったら、社会からの叩かれ方はもっとひどかったであろう。社会は女性の権利侵害のほうが神経質な傾向がある。むろん、特定の性別を差別することは人権侵害である。

使われ方として彼氏を監視するのではなく、子供や保護が必要な老人などの安全を確保するために利用することはできる。自分自身でログを取得して行動履歴を参照する、スマートフォンを紛失したときの追跡に使うという方法も考えられる。だが、カレログはあえてそれらのコンセプトよりも女性がパートナーの男性を監視するというコンセプトを前面に押し出してきた。このため、「男性差別の助長」という声が上がったわけだ。

監視行為は人権侵害か

そもそも監視する行為自体が人権を侵害しているのではないかという意見もあるが、これは両論あり意見が分かれるところだ。例えば、地域を守るための監視カメラなども人権侵害なのだろうか。あるいは、性犯罪者に対するGPSによる監視を条例化することに対しても議論は多様だ。子供や女性の安全は守られるべきだが、監視を行うということ自体が拷問であり、人としての権利を奪っていないのだろうか。ましてや、刑を終了した人がこれから更正していこうとするさいの障害にはならないのだろうか。逆に、被害者の苦痛を思えばそれぐらいは当然ではないだろううか。このようなさまざまな議論がある。

カレログに関しても「浮気防止」という名目の元に行われる監視行為を前面に出していた。では、浮気はいけないことなのだろうか。これは意見の分かれるところだ。「Yes」と答える人もいれば「No」と答える人もいる。自分が当事者のときだけ「No」と答える都合のいいやつもいる。付き合うときに「浮気しないでね」という言葉に同意していれば、それが両者で浮気をしないことを合意していることになる。「別に浮気しても構わないけど、あなたは私と付き合っているんだからね」ということであれば、浮気をしてもいいことに合意していることになる。浮気行為が相手に不快感を与えるのであれば、それは人として控えたほうがいいのは確かである。だからといって、浮気を未然に防ぐという目的で人の行動を監視していいかは別の問題だ。

監視カメラの場合は地域社会の安全を守るという名目があるが、それは社会的な合意を元に監視行為が行われる防犯行為である。犯罪を未然に防ぐのだ。だが、浮気は犯罪ではない。刑法ではなく民法で争うものである。道徳的な問題として多様な意見はあるが、それが人の権利を侵す理由にはならない。社会的合意によらない監視行為は基本的人権を侵していると考えるのが適切である。

アプリ監視は思想の自由、幸福追求の権利を侵す

アプリ一覧取得機能は、彼氏が「エッチ」なアプリを入れていないか監視をすることを想定していたと考えられる。だが、彼女に彼氏の「エッチ」を制限する権利はない。他人の思想、趣味、嗜好に介入する行為は人権を侵害している。彼氏が「エッチ」なアプリを入れて「エッチ」を楽しむのは個人の自由であり、最大限尊重されるべきである。

日本国憲法

第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

彼氏がどのような思想を持っていようとも、その思想は人として尊重されるべきである。もちろん、彼女の「エッチなアプリを入れている彼氏は嫌!」という思想も尊重されるべきであり、お互いの思想の違いについて、お互いに妥協点を見いだせないのであれば別れるのが平和である。

同意という解決策

セキュリティの専門家によると、同意せずに利用者のスマートフォンにアプリをインストールして、利用者の意図がないままに行動履歴を取得することは「不正指令電磁的記録に関する罪」が適用される恐れがあるという。これは刑法168条で規定されているものである。

刑法

第十九章の二 不正指令電磁的記録に関する罪

(不正指令電磁的記録作成等)
第百六十八条の二  正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一  人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二  前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
2  正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
3  前項の罪の未遂は、罰する。

(不正指令電磁的記録取得等)
第百六十八条の三  正当な理由がないのに、前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

まあ、なんてわかりにくい文章なんだろう。さすがは刑法。

現在ではカレログのホームページでも、利用者の同意なしにインストールすればこの罪になると警告している。この問題に対しては、利用者の同意があれば取得した情報の利用が可能になる。カレログにも総務省と意見交換をしたことが記されている。

総務省に伺い、ご指導賜り、意見交換をして参りました

いつも「カレログ」をご利用頂きまして、ありがとうございます。

去る9月20日、私どもは総務省に伺い、私どものサービスのこれまでの問題点の報告、並びに今後のあり方について、ご指導賜り、意見交換をして参りました。

特に「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」第3章26条(位置情報)にある、端末利用者の同意の義務付けをサービス面からも徹底していく事を約束して参りました。

今後とも「カレログ」をよろしくお願いいたします。

ここでいう「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」第3章26条とは、総務省が定めるガイドラインの中の条文のひとつである。

電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン

第3章 各種情報の取扱い

(位置情報)

第26条 電気通信事業者は、利用者の同意がある場合、裁判官の発付した令状に従う場合その他の違法性阻却事由がある場合を除いては、位置情報(移動体端末を所持する者の位置を示す情報であって、発信者情報でないものをいう。以下同じ。)を他人に提供しないものとする。

2 電気通信事業者が、位置情報を加入者又はその指示する者に通知するサービスを提供し、又は第三者に提供させる場合には、利用者の権利が不当に侵害されることを防止するため必要な措置を講ずるものとする。

ここでは位置情報の取り扱いについて挙げられているが、このガイドラインでは位置情報だけでなく通信履歴に関しても同様なことが述べられている。

位置情報など利用者に関する情報を取得して第三者へサービスとして提供する際に、利用者自身の同意を必要とする。サービス面で同意を強制するようにしていけば、ログ収集系のアプリでも違法性を問われることはなく提供できるということだ。

このほか、カレログの次期バージョンであるカレログ2では、利用者側の端末でカレログ2が実行中であることを通知すること、利用者側の端末から通信の遮断を可能にしたことで、利用者の意図しない情報が無断で送信されないようなセキュリティ上の対策としている。

同意すればいいのか

ここで問題となるのは次の点だ。

本当に「同意があればいいのか」ということだ。

お互いに納得して同意したのであれば問題はないように思える。だが、この同意のプロセスが問題となることがある。それは「同意の強制」が行われる場合だ。例えば、彼女に「カレログ入れてくれる? 別にやましいことがなければ入れても問題はないよね? 逆に入れたくないってことは、やましいことがあるってこと?」と迫られた場合、どれだけの男性がカレログのインストールを拒否できるだろうか。彼女と別れたくない男性は断ることができずにインストールしてしまう。利用者の意図に反した同意が行われるということだ。私ならこの時点で別れを決断する。

また、次期バージョンで搭載された通信の遮断モードも使い方を誤れば大変なことになる。彼女に「どうして通信を遮断していたの? やましいことをしていたの?」と言われれば、もうそんな機能は二度と使えなくなってしまう。この機能により、利用者の意図しない情報が無断で送信されることはなくなったが、利用者は我慢して意図しなくてはいけない状態に置かれる。

これが夫婦なら問題はさらに深刻だ。もし拒否したのであれば、おとーさんのこづかいは減らされ、弁当がなくなり、朝食や夕食のおかずが激減という仕打ちを受けることになる。結局のところ、カレログをインストールすることになり、おとーさんは痛くもない腹を探られる羽目になる。

つまり、一方的な力関係が存在する中でなされる同意は、利用者の意図した同意ではないということだ。誰だって監視されるのは嫌である。だが、疑いをかけられひどい仕打ちを受けることを避けるために、渋々ながら監視に同意せざるを得ない状況が発生しうる。これはもう拷問であり、奴隷的な扱いを受けているといってもいいのではないだろうか。

日本国憲法

第18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

女子力という名の下でいかに男性を操るかということを多くの女性が求めるようになってきている現代、人の権利とは何か、ということをもう一度見直さなければならないのではないだろうか。

そもそもの原因は彼女自身の心の闇

カレログだけではなく、ログを収集するアプリは海外でも出回っているが、これらログ収集系のアプリを交際相手に利用する行為は、相手のことを信頼していないことに起因する。相手のことを信頼できずに疑心暗鬼になっている心を、これらログ収集系アプリは、利用させる側に存在する心の中の闇として社会に浮きだたせた。そもそもの情報の取り扱いの甘さやコンセプトに対する異論はあったものの、カレログに対する批判は、その心の闇に対する批判のとばっちりを食ったのかもしれない。

交際相手のことを信頼できない未熟な自分自身の心を安定させたいために、相手の行動を常に監視したいという気持ちになってしまう。これは自分自身の心の問題であり、交際相手が実際に浮気をしているか浮気をしていないかは問題ではない。浮気していることがわかれば、そのときに問いただせばいい。浮気をしているだろうかと疑心暗鬼なってしまう心をどうにかしないかぎり、また別のことで疑心暗鬼になってしまうだろう。それは自身の心の弱さ、未熟さの問題であり交際相手に問題はない。自身の問題は自身でしか解決することはできない。

人を操ろうとする心や人を信頼できない心は、人間関係などの人生経験を通じて成長させていき、人に対する信頼や自分自身の強さを身につけていくことでしか解決できない。結果を急がずにたくさんの経験を通じて、たくさんの人と関わり、たくさん笑い、たくさん涙し、人間としての強さを身につけていくことが最も有効な解決策ではないだろうか。

ソフトウェアやサービスは人を幸せにすべき

カレログの問題は、今後も多数出てくるであろうログ収集サービスに関する議論のきっかけを与えてくれた。実際、ミログが提供するログ収集APIでも問題が出てきた。個人情報の保護という観点なども含めて、どの程度のログが利用可能であるべきか、サービスを提供する際の手続きの適正さはいかなるものか。利用者の同意はどう担保するのだろうか。これらの議論は今後、行政や業界内で法律や技術的なことを含めて進められるだろう。

ひとつだけ言えることは、ソフトウェアやサービスを提供する側は、人の悪意のある欲望につけ込んだサービスを提供すべきではないし、多くの人を苦しめる可能性の高いソフトウェアを作るべきではない。

「ソフトウェアは人を幸せにすることを目標とすべきであり、人を不幸にする目的では作成してはいけない」

強者のみが弱者につけ込んでどんどん得をして強者になり、弱者はますます弱者になっていく社会が健全なはずはない。弱者につけ込む行為は慎むべきであり、それを助長するサービスは提供されるべきではない。今後もリリースされるであろうログ収集系アプリは、利用者の真の利益になることを目指してもらいたいし、そのようなサービスが出てくることを切に願っている。